首導月訓 令和3年の月訓

首導月訓(令和3年10月)

◆「己の如く汝の隣人を愛すべし」(『旧約聖書 レビ記』)というのが、西洋の人倫規範の基本であると言う。一方、東洋では「己の欲せざる所は人に施すこと勿れ」(『論語 顔淵第十二・衛霊公第十五』)がそれに当たると言われる。

◆仏教では「慈悲」をいう。慈悲は、慈と悲に分かれる。「慈」は、マイトリーまたはマイトラの訳語で、友を意味するミトラと同源のことば。親愛の情、友情を意味する。「悲」は、カルナーの訳語で、もともと嘆きを意味した。そこから、憐れみ、同情、優しさなどを含意するようになった。

◆一般に、「与楽」すなわち人びとに楽を与へることを「慈」と言い、「抜苦」つまり、人びとの苦を抜くことを「悲」であるとする。また、慈は父親の愛情に、悲は母親の愛情にたとえられ、慈父、悲母などと表現する。

◆『聖書』の良く言えば積極性、悪く言えば押しつけがましさ、『論語』の与えて言えば慎ましやかさ、奪って言えば消極性を勘案して、仏教思想との優劣を論ずることもたやすいことではあるが、今はそれを問題にせずに置こう。

◆「愛」でも「仁」でも良い。肝腎なのはそれを実践するかどうかである。如何に「慈悲」を説こうとも、その行動に慈悲がないのであれば、その人の生活は幸福にはならない。

◆「愛」の義を知らず、「仁」の意を識らず、「慈悲」の旨趣を理解せずとも、己以外の者に対し、温かい行いが為せさえすれば、私たちの人生の苦悩は自ずから除かれるのである。

日蓮宗聖徒団首導 髙佐日瑞

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