紙上法話

治しがたきは身の病よりも心の病

コロナ禍の葬儀


 3年あまり私たちを悩ませた新型コロナウイルス感染症でしたが、ゴールデンウィーク明けに「5類」に移行し、ほぼ時を同じくして、WHO(世界保健機関)でも、5月5日に「緊急事態」の宣言を終了すると発表しました。

季節性インフルエンザ並みになったということではありますけれども、実は、インフルエンザは、流行すれば千万の単位の方が感染し、万の単位の方が亡くなる感染症です。「風邪は万病の元」ですし、風邪をこじらせて亡くなるということも、以前は珍しい話ではありませんでした。

先日、檀家の91歳になるお爺さんが亡くなりました。私が日課の朝の散歩をしていると、お孫さんと一緒の姿をよく見かけ、挨拶を交わしていたような方でした。

亡くなる一週間前に、長男のお嫁さんから電話があり、お爺さんが急性の肺炎で入院と聞かされていました。病気知らずの元気な方だったので、お嫁さんからの一報に驚きました。

検査してみると、新型コロナの陽性であったとのこと。急遽、家族全員のPCR検査となりましたが皆さん陰性だったそうです。何故お爺さんだけが陽性だったのか、いまだにわからないのだとか。外出は、朝の散歩ぐらいだったそうで、コロナ禍前から、だいたい家の中で過ごしていたようなのですが。

お爺さんの容態を心配していましたが、数日して、病状の急変を伝える連絡が入りました。入院する少し前に、「もうすぐお母さんの十七回忌だから、ちゃんとご供養しないとね」とお嫁さんが言っても、「それはできないかもしれない」と話していたことも伺いました。入院の2、3日前には、久し振りに近所の床屋に行って散髪を済ませていたとのことでした。虫の知らせでもあったのかもしれません。一週間後、訃報が伝えられました。

新型コロナ陽性者であるため、なかなか葬儀の予定が立ちませんでしたが、数日後、ようやく役所の許可がおり、つつがなく葬儀をいとなめました。お爺さんを霊山浄土へ送る儀式をすることができ、ご家族も安心されたことと思います。

四百四の身病と八万四千の心病

 生まれてきた者は、誰でも、時とともに老いて行き、やがてこの世を去ります。どんなに丈夫で壮健な人であっても、病気知らずのように見えたお爺さんと同じく、病と無縁であることはありません。

日蓮大聖人さまのご遺文の中には、人の病について触れられた記述が幾つもありますが、『治病大小権実違目(富木入道殿御返事)』の一節をご紹介します。

人に二病あり。一には身の病、所謂地大百一、水大百一、火大百一、風大百一、已上、四百四病なり。この病はたとい仏にあらざれどもこれを治す。いわゆる治水(ちすい)、流水(るすい)、耆婆(ぎば)、扁鵲(へんじゃく)等が方薬、これを治するにいゆて癒えずという事なし。二には心の病、いわゆる三毒乃至八万四千の病なり。この病は二天、三仙、六師等も治しがたし。

病には身の病と心の病の二種があります。人の身は地・水・火・風の四大(万物の根源となる四元素)の和合によって成り、身の病はその不調に由来して起るとされます。地・水・火・風の病がそれぞれ百一種類あり、合計四百四病があります。

治水・流水・耆婆・扁鵲というのは伝説的な名医の名です。治水と流水と耆婆とは古代インドの、扁鵲は中国春秋時代の人でした。

心の病というと、精神病のようなものを思いますが、貪・瞋・痴の三毒を始めとして、八万四千の心の病があると大聖人さまは仰います。

生・老・病・死を四苦と呼び…、というようなことを改めて申し上げなくとも、病は私たち人間の最大の苦しみの一つであり、昔も今も悩みの元です。今般の新型感染症も、先ほどのお爺さんを始め、いのちを落とされた多くの方がおられ、日本のみならず世界全体の社会生活に大きな影を落としました。

それでもどうやら身の病としての新型コロナは、恐れおののく段階ではなくなりました。そもそも、身の病であれば、大聖人さまのお示しのように、医学薬学によって対処することができます。

私たちが本当に畏れなければならないのは、心の病です。「この病は二天、三仙、六師等も治しがたし」。

けれど、この八万四千の心の病も、お題目という良薬によって治すことができるのです。

いっそう日々の信行に励み、お題目を唱えて功徳をいただいて、コロナ禍の落とした影も含めて、心の病を乗り越えて参りましょう。

-紙上法話

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